創世記(31章~50章)A01




第31章


創 31:1

 さてヤコブはラバンの子らが、「ヤコブはわれわれの父の物をことごとく奪い、父の物によってあのすべての富を獲たのだ」と言っているのを聞いた。

創 31:2

 またヤコブがラバンの顔を見るのに、それは自分に対して以前のようではなかった。

創 31:3

 主はヤコブに言われた、「あなたの先祖の国へ帰り、親族のもとに行きなさい。わたしはあなたと共にいるであろう」。

創 31:4

 そこでヤコブは人をやって、ラケルとレアとを、野にいる自分の群れのところに招き、

創 31:5

 彼女らに言った、「わたしがあなたがたの父の顔を見るのに、わたしに対して以前のようではない。しかし、わたしの父の神はわたしと共におられる。

創 31:6

 あなたがたが知っているように、わたしは力のかぎり、あなたがたの父に仕えてきた。

創 31:7

 しかし、あなたがたの父はわたしを欺いて、十度もわたしの報酬を変えた。けれども神は彼がわたしに害を加えることをお許しにならなかった。

創 31:8

 もし彼が、『ぶちのものはあなたの報酬だ』と言えば、群れは皆ぶちのものを産んだ。もし彼が、『しまのあるものはあなたの報酬だ』と言えば、群れは皆しまのあるものを産んだ。

創 31:9

 こうして神はあなたがたの父の家畜をとってわたしに与えられた。

創 31:10

 また群れが発情した時、わたしが夢に目をあげて見ると、群れの上に乗っている雄やぎは皆しまのあるもの、ぶちのもの、霜ふりのものであった。

創 31:11

 その時、神の使が夢の中でわたしに言った、『ヤコブよ』。わたしは答えた、『ここにおります』。

創 31:12

 神の使は言った、『目を上げて見てごらん。群れの上に乗っている雄やぎは皆しまのあるもの、ぶちのもの、霜ふりのものです。わたしはラバンがあなたにしたことをみな見ています。

創 31:13

 わたしはベテルの神です。かつてあなたはあそこで柱に油を注いで、わたしに誓いを立てましたが、いま立ってこの地を出て、あなたの生れた国へ帰りなさい』」。

創 31:14

 ラケルとレアは答えて言った、「わたしたちの父の家に、なおわたしたちの受くべき分、また嗣業がありましょうか。

創 31:15

 わたしたちは父に他人のように思われているではありませんか。彼はわたしたちを売ったばかりでなく、わたしたちのその金をさえ使い果したのです。

創 31:16

 神がわたしたちの父から取りあげられた富は、みなわたしたちとわたしたちの子どものものです。だから何事でも神があなたにお告げになった事をしてください」。

創 31:17

 そこでヤコブは立って、子らと妻たちをらくだに乗せ、

創 31:18

 またすべての家畜、すなわち彼がパダンアラムで獲た家畜と、すべての財産を携えて、カナンの地におる父イサクのもとへ赴いた。

創 31:19

 その時ラバンは羊の毛を切るために出ていたので、ラケルは父の所有のテラピムを盗み出した。

創 31:20

 またヤコブはアラムびとラバンを欺き、自分の逃げ去るのを彼に告げなかった。

創 31:21

 こうして彼はすべての持ち物を携えて逃げ、立って川を渡り、ギレアデの山地へ向かった。

創 31:22

 三日目になって、ヤコブの逃げ去ったことが、ラバンに聞えたので、

創 31:23

 彼は一族を率いて、七日の間そのあとを追い、ギレアデの山地で追いついた。

創 31:24

 しかし、神は夜の夢にアラムびとラバンに現れて言われた、「あなたは心してヤコブに、よしあしを言ってはなりません」。

創 31:25

 ラバンはついにヤコブに追いついたが、ヤコブが山に天幕を張っていたので、ラバンも一族と共にギレアデの山に天幕を張った。

創 31:26

 ラバンはヤコブに言った、「あなたはなんという事をしたのですか。あなたはわたしを欺いてわたしの娘たちをいくさのとりこのように引いて行きました。

創 31:27

 なぜあなたはわたしに告げずに、ひそかに逃げ去ってわたしを欺いたのですか。わたしは手鼓や琴で喜び歌ってあなたを送りだそうとしていたのに。

創 31:28

 なぜわたしの孫や娘にわたしが口づけするのを許さなかったのですか。あなたは愚かな事をしました。

創 31:29

 わたしはあなたがたに害を加える力をもっているが、あなたがたの父の神が昨夜わたしに告げて、『おまえは心して、ヤコブによしあしを言うな』と言われました。

創 31:30

 今あなたが逃げ出したのは父の家が非常に恋しくなったからでしょうが、なぜあなたはわたしの神を盗んだのですか」。

創 31:31

 ヤコブはラバンに答えた、「たぶんあなたが娘たちをわたしから奪いとるだろうと思ってわたしは恐れたからです。

創 31:32

 だれの所にでもあなたの神が見つかったら、その者を生かしてはおきません。何かあなたの物がわたしのところにあるか、われわれの一族の前で、調べてみて、それをお取りください」。ラケルが神を盗んだことをヤコブは知らなかったからである。

創 31:33

 そこでラバンはヤコブの天幕にはいり、またレアの天幕にはいり、更にふたりのはしための天幕にはいってみたが、見つからなかったので、レアの天幕を出てラケルの天幕にはいった。

創 31:34

 しかし、ラケルはすでにテラピムを取って、らくだのくらの下に入れ、その上にすわっていたので、ラバンは、くまなく天幕の中を捜したが、見つからなかった。

創 31:35

 その時ラケルは父に言った、「わたしは女の常のことがあって、あなたの前に立ち上がることができません。わが主よ、どうかお怒りにならぬよう」。彼は捜したがテラピムは見つからなかった。

創 31:36

 そこでヤコブは怒ってラバンを責めた。そしてヤコブはラバンに言った、「わたしにどんなあやまちがあり、どんな罪があって、あなたはわたしのあとを激しく追ったのですか。

創 31:37

 あなたはわたしの物をことごとく探られたが、何かあなたの家の物が見つかりましたか。それを、ここに、わたしの一族と、あなたの一族の前に置いて、われわれふたりの間をさばかせましょう。

創 31:38

 わたしはこの二十年、あなたと一緒にいましたが、その間あなたの雌羊も雌やぎも子を産みそこねたことはなく、またわたしはあなたの群れの雄羊を食べたこともありませんでした。

創 31:39

 また野獣が、かみ裂いたものは、あなたのもとに持ってこないで、自分でそれを償いました。また昼盗まれたものも、夜盗まれたものも、あなたはわたしにその償いを求められました。

創 31:40

 わたしのことを言えば、昼は暑さに、夜は寒さに悩まされて、眠ることもできませんでした。

創 31:41

 わたしはこの二十年あなたの家族のひとりでありました。わたしはあなたのふたりの娘のために十四年、またあなたの群れのために六年、あなたに仕えましたが、あなたは十度もわたしの報酬を変えられました。

創 31:42

 もし、わたしの父の神、アブラハムの神、イサクのかしこむ者がわたしと共におられなかったなら、あなたはきっとわたしを、から手で去らせたでしょう。神はわたしの悩みと、わたしの労苦とを顧みられて昨夜あなたを戒められたのです」。

創 31:43

 ラバンは答えてヤコブに言った、「娘たちはわたしの娘、子どもたちはわたしの孫です。また群れはわたしの群れ、あなたの見るものはみなわたしのものです。これらのわたしの娘たちのため、また彼らが産んだ子どもたちのため、きょうわたしは何をすることができましょうか。

創 31:44

 さあ、それではわたしとあなたと契約を結んで、これをわたしとあなたとの間の証拠としましょう」。

創 31:45

 そこでヤコブは石を取り、それを立てて柱とした。

創 31:46

 ヤコブはまた一族の者に言った、「石を集めてください」。彼らは石を取って、一つの石塚を造った。こうして彼らはその石塚のかたわらで食事をした。

創 31:47

 ラバンはこれをエガル・サハドタと名づけ、ヤコブはこれをガルエドと名づけた。

創 31:48

 そしてラバンは言った、「この石塚はきょうわたしとあなたとの間の証拠となります」。それでその名はガルエドと呼ばれた。

創 31:49

 またミズパとも呼ばれた。彼がこう言ったからである、「われわれが互に別れたのちも、どうか主がわたしとあなたとの間を見守られるように。

創 31:50

 もしあなたがわたしの娘を虐待したり、わたしの娘のほかに妻をめとることがあれば、たといそこにだれひとりいなくても、神はわたしとあなたとの間の証人でいらせられる」。

創 31:51

 更にラバンはヤコブに言った、「あなたとわたしとの間にわたしが建てたこの石塚をごらんなさい、この柱をごらんなさい。

創 31:52

 この石塚を越えてわたしがあなたに害を加えず、またこの石塚とこの柱を越えてあなたがわたしに害を加えないように、どうかこの石塚があかしとなり、この柱があかしとなるように。

創 31:53

 どうかアブラハムの神、ナホルの神、彼らの父の神がわれわれの間をさばかれるように」。ヤコブは父イサクのかしこむ者によって誓った。

創 31:54

 そしてヤコブは山で犠牲をささげ、一族を招いて、食事をした。彼らは食事をして山に宿った。

創 31:55

 あくる朝ラバンは早く起き、孫と娘たちに口づけして彼らを祝福し、去って家に帰った。


第32章


創 32:1

 さて、ヤコブが旅路に進んだとき、神の使たちが彼に会った。

創 32:2

 ヤコブは彼らを見て、「これは神の陣営です」と言って、その所の名をマハナイムと名づけた。

創 32:3

 ヤコブはセイルの地、エドムの野に住む兄エサウのもとに、さきだって使者をつかわした。

創 32:4

 すなわちそれに命じて言った、「あなたがたはわたしの主人エサウにこう言いなさい、『あなたのしもべヤコブはこう言いました。わたしはラバンのもとに寄留して今までとどまりました。

創 32:5

 わたしは牛、ろば、羊、男女の奴隷を持っています。それでわが主に申し上げて、あなたの前に恵みを得ようと人をつかわしたのです』」。

創 32:6

 使者はヤコブのもとに帰って言った、「わたしたちはあなたの兄エサウのもとへ行きました。彼もまたあなたを迎えようと四百人を率いてきます」。

創 32:7

 そこでヤコブは大いに恐れ、苦しみ、共にいる民および羊、牛、らくだを二つの組に分けて、

創 32:8

 言った、「たとい、エサウがきて、一つの組を撃っても、残りの組はのがれるであろう」。

創 32:9

 ヤコブはまた言った、「父アブラハムの神、父イサクの神よ、かつてわたしに『おまえの国へ帰り、おまえの親族に行け。わたしはおまえを恵もう』と言われた主よ、

創 32:10

 あなたがしもべに施されたすべての恵みとまことをわたしは受けるに足りない者です。わたしは、つえのほか何も持たないでこのヨルダンを渡りましたが、今は二つの組にもなりました。

創 32:11

 どうぞ、兄エサウの手からわたしをお救いください。わたしは彼がきて、わたしを撃ち、母や子供たちにまで及ぶのを恐れます。

創 32:12

 あなたは、かつて、『わたしは必ずおまえを恵み、おまえの子孫を海の砂の数えがたいほど多くしよう』と言われました」。

創 32:13

 彼はその夜そこに宿り、持ち物のうちから兄エサウへの贈り物を選んだ。

創 32:14

 すなわち雌やぎ二百、雄やぎ二十、雌羊二百、雄羊二十、

創 32:15

 乳らくだ三十とその子、雌牛四十、雄牛十、雌ろば二十、雄ろば十。

創 32:16

 彼はこれらをそれぞれの群れに分けて、しもべたちの手にわたし、しもべたちに言った、「あなたがたはわたしの先に進みなさい、そして群れと群れとの間には隔たりをおきなさい」。

創 32:17

 また先頭の者に命じて言った、「もし、兄エサウがあなたに会って『だれのしもべで、どこへ行くのか。あなたの前にあるこれらのものはだれの物か』と尋ねたら、

創 32:18

 『あなたのしもべヤコブの物で、わが主エサウにおくる贈り物です。彼もわたしたちのうしろにおります』と言いなさい」。

創 32:19

 彼は第二の者にも、第三の者にも、また群れ群れについて行くすべての者にも命じて言った、「あなたがたがエサウに会うときは、同じように彼に告げて、

創 32:20

 『あなたのしもべヤコブもわれわれのうしろにおります』と言いなさい」。ヤコブは、「わたしがさきに送る贈り物をもってまず彼をなだめ、それから、彼の顔を見よう。そうすれば、彼はわたしを迎えてくれるであろう」と思ったからである。

創 32:21

 こうして贈り物は彼に先立って渡り、彼はその夜、宿営にやどった。

創 32:22

 彼はその夜起きて、ふたりの妻とふたりのつかえめと十一人の子どもとを連れてヤボクの渡しをわたった。

創 32:23

 すなわち彼らを導いて川を渡らせ、また彼の持ち物を渡らせた。

創 32:24

 ヤコブはひとりあとに残ったが、ひとりの人が、夜明けまで彼と組打ちした。

創 32:25

 ところでその人はヤコブに勝てないのを見て、ヤコブのもものつがいにさわったので、ヤコブのもものつがいが、その人と組打ちするあいだにはずれた。

創 32:26

 その人は言った、「夜が明けるからわたしを去らせてください」。ヤコブは答えた、「わたしを祝福してくださらないなら、あなたを去らせません」。

創 32:27

 その人は彼に言った、「あなたの名はなんと言いますか」。彼は答えた、「ヤコブです」。

創 32:28

 その人は言った、「あなたはもはや名をヤコブと言わず、イスラエルと言いなさい。あなたが神と人とに、力を争って勝ったからです」。

創 32:29

 ヤコブは尋ねて言った、「どうかわたしにあなたの名を知らせてください」。するとその人は、「なぜあなたはわたしの名をきくのですか」と言ったが、その所で彼を祝福した。

創 32:30

 そこでヤコブはその所の名をペニエルと名づけて言った、「わたしは顔と顔をあわせて神を見たが、なお生きている」。

創 32:31

 こうして彼がペニエルを過ぎる時、日は彼の上にのぼったが、彼はそのもものゆえに歩くのが不自由になっていた。

創 32:32

 そのため、イスラエルの子らは今日まで、もものつがいの上にある腰の筋を食べない。かの人がヤコブのもものつがい、すなわち腰の筋にさわったからである。


第33章


創 33:1

 さてヤコブは目をあげ、エサウが四百人を率いて来るのを見た。そこで彼は子供たちを分けてレアとラケルとふたりのつかえめとにわたし、

創 33:2

 つかえめとその子供たちをまっ先に置き、レアとその子供たちを次に置き、ラケルとヨセフを最後に置いて、

創 33:3

 みずから彼らの前に進み、七たび身を地にかがめて、兄に近づいた。

創 33:4

 するとエサウは走ってきて迎え、彼を抱き、そのくびをかかえて口づけし、共に泣いた。

創 33:5

 エサウは目をあげて女と子供たちを見て言った、「あなたと一緒にいるこれらの者はだれですか」。ヤコブは言った、「神がしもべに授けられた子供たちです」。

創 33:6

 そこでつかえめたちはその子供たちと共に近寄ってお辞儀した。

創 33:7

 レアもまたその子供たちと共に近寄ってお辞儀し、それからヨセフとラケルが近寄ってお辞儀した。

創 33:8

 するとエサウは言った、「わたしが出会ったあのすべての群れはどうしたのですか」。ヤコブは言った、「わが主の前に恵みを得るためです」。

創 33:9

 エサウは言った、「弟よ、わたしはじゅうぶんもっている。あなたの物はあなたのものにしなさい」。

創 33:10

 ヤコブは言った、「いいえ、もしわたしがあなたの前に恵みを得るなら、どうか、わたしの手から贈り物を受けてください。あなたが喜んでわたしを迎えてくださるので、あなたの顔を見て、神の顔を見るように思います。

創 33:11

 どうかわたしが持ってきた贈り物を受けてください。神がわたしを恵まれたので、わたしはじゅうぶんもっていますから」。こうして彼がしいたので、彼は受け取った。

創 33:12

 そしてエサウは言った、「さあ、立って行こう。わたしが先に行く」。

創 33:13

 ヤコブは彼に言った、「ごぞんじのように、子供たちは、かよわく、また乳を飲ませている羊や牛をわたしが世話をしています。もし一日でも歩かせ過ぎたら群れはみな死んでしまいます。

創 33:14

 わが主よ、どうか、しもべの先においでください。わたしはわたしの前にいる家畜と子供たちの歩みに合わせて、ゆっくり歩いて行き、セイルでわが主と一緒になりましょう」。

創 33:15

 エサウは言った、「それならわたしが連れている者どものうち幾人かをあなたのもとに残しましょう」。ヤコブは言った、「いいえ、それには及びません。わが主の前に恵みを得させてください」。

創 33:16

 その日エサウはセイルへの帰途についた。

創 33:17

 ヤコブは立ってスコテに行き、自分のために家を建て、また家畜のために小屋を造った。これによってその所の名はスコテと呼ばれている。

創 33:18

 こうしてヤコブはパダンアラムからきて、無事カナンの地のシケムの町に着き、町の前に宿営した。

創 33:19

 彼は天幕を張った野の一部をシケムの父ハモルの子らの手から百ケシタで買い取り、

創 33:20

 そこに祭壇を建てて、これをエル・エロヘ・イスラエルと名づけた。


第34章


創 34:1

 レアがヤコブに産んだ娘デナはその地の女たちに会おうと出かけて行ったが、

創 34:2

 その地のつかさ、ヒビびとハモルの子シケムが彼女を見て、引き入れ、これと寝てはずかしめた。

創 34:3

 彼は深くヤコブの娘デナを慕い、この娘を愛して、ねんごろに娘に語った。

創 34:4

 シケムは父ハモルに言った、「この娘をわたしの妻にめとってください」。

創 34:5

 さてヤコブはシケムが、娘デナを汚したことを聞いたけれども、その子らが家畜を連れて野にいたので、彼らの帰るまで黙っていた。

創 34:6

 シケムの父ハモルはヤコブと話し合おうと、ヤコブの所に出てきた。

創 34:7

 ヤコブの子らは野から帰り、この事を聞いて、悲しみ、かつ非常に怒った。シケムがヤコブの娘と寝て、イスラエルに愚かなことをしたためで、こんなことは、してはならぬ事だからである。

創 34:8

 ハモルは彼らと語って言った、「わたしの子シケムはあなたがたの娘を心に慕っています。どうか彼女を彼の妻にください。

創 34:9

 あなたがたはわたしたちと婚姻し、あなたがたの娘をわたしたちに与え、わたしたちの娘をあなたがたにめとってください。

創 34:10

 こうしてあなたがたとわたしたちとは一緒に住みましょう。地はあなたがたの前にあります。ここに住んで取引し、ここで財産を獲なさい」。

創 34:11

 シケムはまたデナの父と兄弟たちとに言った、「あなたがたの前に恵みを得させてください。あなたがたがわたしに言われるものは、なんでもさしあげましょう。

創 34:12

 たくさんの結納金と贈り物とをお求めになっても、あなたがたの言われるとおりさしあげます。ただこの娘はわたしの妻にください」。

創 34:13

 しかし、ヤコブの子らはシケムが彼らの妹デナを汚したので、シケムとその父ハモルに偽って答え、

創 34:14

 彼らに言った、「われわれは割礼を受けない者に妹をやる事はできません。それはわれわれの恥とするところですから。

創 34:15

 ただ、こうなさればわれわれはあなたがたに同意します。もしあなたがたのうち男子がみな割礼を受けて、われわれのようになるなら、

創 34:16

 われわれの娘をあなたがたに与え、あなたがたの娘をわれわれにめとりましょう。そしてわれわれはあなたがたと一緒に住んで一つの民となりましょう。

創 34:17

 けれども、もしあなたがたがわれわれに聞かず、割礼を受けないなら、われわれは娘を連れて行きます」。

創 34:18

 彼らの言葉がハモルとハモルの子シケムとの心にかなったので、

創 34:19

 若者は、ためらわずにこの事をした。彼がヤコブの娘を愛したからである。また彼は父の家のうちで一番重んじられた者であった。

創 34:20

 そこでハモルとその子シケムとは町の門に行き、町の人々に語って言った、

創 34:21

 「この人々はわれわれと親しいから、この地に住まわせて、ここで取引をさせよう。地は広く、彼らをいれるにじゅうぶんである。そしてわれわれは彼らの娘を妻にめとり、われわれの娘を彼らに与えよう。

創 34:22

 彼らが割礼を受けているように、もしわれわれのうちの男子が皆、割礼を受けるなら、ただこの事だけで、この人々はわれわれに同意し、われわれと一緒に住んで一つの民となるのだ。

創 34:23

 そうすれば彼らの家畜と財産とすべての獣とは、われわれのものとなるではないか。ただわれわれが彼らに同意すれば、彼らはわれわれと一緒に住むであろう」。

創 34:24

 そこで町の門に出入りする者はみなハモルとその子シケムとに聞き従って、町の門に出入りするすべての男子は割礼を受けた。

創 34:25

 三日目になって彼らが痛みを覚えている時、ヤコブのふたりの子、すなわちデナの兄弟シメオンとレビとは、おのおのつるぎを取って、不意に町を襲い、男子をことごとく殺し、

創 34:26

 またつるぎの刃にかけてハモルとその子シケムとを殺し、シケムの家からデナを連れ出した。

創 34:27

 そしてヤコブの子らは殺された人々をはぎ、町をかすめた。彼らが妹を汚したからである。

創 34:28

 すなわち羊、牛、ろば及び町にあるものと、野にあるもの、

創 34:29

 並びにすべての貨財を奪い、その子女と妻たちを皆とりこにし、家の中にある物をことごとくかすめた。

創 34:30

 そこでヤコブはシメオンとレビとに言った、「あなたがたはわたしをこの地の住民、カナンびととペリジびとに忌みきらわせ、わたしに迷惑をかけた。わたしは、人数が少ないから、彼らが集まってわたしを攻め撃つならば、わたしも家族も滅ぼされるであろう」。

創 34:31

 彼らは言った、「わたしたちの妹を遊女のように彼が扱ってよいのですか」。


第35章


創 35:1

 ときに神はヤコブに言われた、「あなたは立ってベテルに上り、そこに住んで、あなたがさきに兄エサウの顔を避けてのがれる時、あなたに現れた神に祭壇を造りなさい」。

創 35:2

 ヤコブは、その家族および共にいるすべての者に言った、「あなたがたのうちにある異なる神々を捨て、身を清めて着物を着替えなさい。

創 35:3

 われわれは立ってベテルに上り、その所でわたしの苦難の日にわたしにこたえ、かつわたしの行く道で共におられた神に祭壇を造ろう」。

創 35:4

 そこで彼らは持っている異なる神々と、耳につけている耳輪をことごとくヤコブに与えたので、ヤコブはこれをシケムのほとりにあるテレビンの木の下に埋めた。

創 35:5

 そして彼らは、いで立ったが、大いなる恐れが周囲の町々に起ったので、ヤコブの子らのあとを追う者はなかった。

創 35:6

 こうしてヤコブは共にいたすべての人々と一緒にカナンの地にあるルズ、すなわちベテルにきた。

創 35:7

 彼はそこに祭壇を築き、その所をエル・ベテルと名づけた。彼が兄の顔を避けてのがれる時、神がそこで彼に現れたからである。

創 35:8

 時にリベカのうばデボラが死んで、ベテルのしもの、かしの木の下に葬られた。これによってその木の名をアロン・バクテと呼ばれた。

創 35:9

 さてヤコブがパダンアラムから帰ってきた時、神は再び彼に現れて彼を祝福された。

創 35:10

 神は彼に言われた、「あなたの名はヤコブである。しかしあなたの名をもはやヤコブと呼んではならない。あなたの名をイスラエルとしなさい」。こうして彼をイスラエルと名づけられた。

創 35:11

 神はまた彼に言われた、/「わたしは全能の神である。あなたは生めよ、またふえよ。一つの国民、また多くの国民があなたから出て、/王たちがあなたの身から出るであろう。

創 35:12

 わたしはアブラハムとイサクとに与えた地を、/あなたに与えよう。またあなたの後の子孫にその地を与えよう」。

創 35:13

 神は彼と語っておられたその場所から彼を離れてのぼられた。

創 35:14

 そこでヤコブは神が自分と語られたその場所に、一本の石の柱を立て、その上に灌祭をささげ、また油を注いだ。

創 35:15

 そしてヤコブは神が自分と語られたその場所をベテルと名づけた。

創 35:16

 こうして彼らはベテルを立ったが、エフラタに行き着くまでに、なお隔たりのある所でラケルは産気づき、その産は重かった。

創 35:17

 その難産に当って、産婆は彼女に言った、「心配することはありません。今度も男の子です」。

創 35:18

 彼女は死にのぞみ、魂の去ろうとする時、子の名をベノニと呼んだ。しかし、父はこれをベニヤミンと名づけた。

創 35:19

 ラケルは死んでエフラタ、すなわちベツレヘムの道に葬られた。

創 35:20

 ヤコブはその墓に柱を立てた。これはラケルの墓の柱であって、今日に至っている。

創 35:21

 イスラエルはまた、いで立ってミグダル・エダルの向こうに天幕を張った。

創 35:22

 イスラエルがその地に住んでいた時、ルベンは父のそばめビルハのところへ行って、これと寝た。イスラエルはこれを聞いた。さてヤコブの子らは十二人であった。

創 35:23

 すなわちレアの子らはヤコブの長子ルベンとシメオン、レビ、ユダ、イッサカル、ゼブルン。

創 35:24

 ラケルの子らはヨセフとベニヤミン。

創 35:25

 ラケルのつかえめビルハの子らはダンとナフタリ。

創 35:26

 レアのつかえめジルパの子らはガドとアセル。これらはヤコブの子らであって、パダンアラムで彼に生れた者である。

創 35:27

 ヤコブはキリアテ・アルバ、すなわちヘブロンのマムレにいる父イサクのもとへ行った。ここはアブラハムとイサクとが寄留した所である。

創 35:28

 イサクの年は百八十歳であった。

創 35:29

 イサクは年老い、日満ちて息絶え、死んで、その民に加えられた。その子エサウとヤコブとは、これを葬った。


第36章


創 36:1

 エサウ、すなわちエドムの系図は次のとおりである。

創 36:2

 エサウはカナンの娘たちのうちから妻をめとった。すなわちヘテびとエロンの娘アダと、ヒビびとヂベオンの子アナの娘アホリバマとである。

創 36:3

 また、イシマエルの娘ネバヨテの妹バスマテをめとった。

創 36:4

 アダはエリパズをエサウに産み、バスマテはリウエルを産み、

創 36:5

 アホリバマはエウシ、ヤラム、コラを産んだ。これらはエサウの子であって、カナンの地で彼に生れた者である。

創 36:6

 エサウは妻と子と娘と家のすべての人、家畜とすべての獣、またカナンの地で獲たすべての財産を携え、兄弟ヤコブを離れてほかの地へ行った。

創 36:7

 彼らの財産が多くて、一緒にいることができなかったからである。すなわち彼らが寄留した地は彼らの家畜のゆえに、彼らをささえることができなかったのである。

創 36:8

 こうしてエサウはセイルの山地に住んだ。エサウはすなわちエドムである。

創 36:9

 セイルの山地におったエドムびとの先祖エサウの系図は次のとおりである。

創 36:10

 エサウの子らの名は次のとおりである。すなわちエサウの妻アダの子はエリパズ。エサウの妻バスマテの子はリウエル。

創 36:11

 エリパズの子らはテマン、オマル、ゼポ、ガタム、ケナズである。

創 36:12

 テムナはエサウの子エリパズのそばめで、アマレクをエリパズに産んだ。これらはエサウの妻アダの子らである。

創 36:13

 リウエルの子らは次のとおりである。すなわちナハテ、ゼラ、シャンマ、ミザであって、これらはエサウの妻バスマテの子らである。

創 36:14

 ヂベオンの子アナの娘で、エサウの妻アホリバマの子らは次のとおりである。すなわち彼女はエウシ、ヤラム、コラをエサウに産んだ。

創 36:15

 エサウの子らの中で、族長たる者は次のとおりである。すなわちエサウの長子エリパズの子らはテマンの族長、オマルの族長、ゼポの族長、ケナズの族長、

創 36:16

 コラの族長、ガタムの族長、アマレクの族長である。これらはエリパズから出た族長で、エドムの地におった。これらはアダの子らである。

創 36:17

 エサウの子リウエルの子らは次のとおりである。すなわちナハテの族長、ゼラの族長、シャンマの族長、ミザの族長。これらはリウエルから出た族長で、エドムの地におった。これらはエサウの妻バスマテの子らである。

創 36:18

 エサウの妻アホリバマの子らは次のとおりである。すなわちエウシの族長、ヤラムの族長、コラの族長。これらはアナの娘で、エサウの妻アホリバマから出た族長である。

創 36:19

 これらはエサウすなわちエドムの子らで、族長たる者である。

創 36:20

 この地の住民ホリびとセイルの子らは次のとおりである。すなわちロタン、ショバル、ヂベオン、アナ、

創 36:21

 デション、エゼル、デシャン。これらはセイルの子ホリびとから出た族長で、エドムの地におった。

創 36:22

 ロタンの子らはホリ、ヘマムであり、ロタンの妹はテムナであった。

創 36:23

 ショバルの子らは次のとおりである。すなわちアルワン、マナハテ、エバル、シポ、オナム。

創 36:24

 ヂベオンの子らは次のとおりである。すなわちアヤとアナ。このアナは父ヂベオンのろばを飼っていた時、荒野で温泉を発見した者である。

創 36:25

 アナの子らは次のとおりである。すなわちデションとアホリバマ。アホリバマはアナの娘である。

創 36:26

 デションの子らは次のとおりである。すなわちヘムダン、エシバン、イテラン、ケラン。

創 36:27

 エゼルの子らは次のとおりである。すなわちビルハン、ザワン、アカン。

創 36:28

 デシャンの子らは次のとおりである。すなわちウズとアラン。

創 36:29

 ホリびとから出た族長は次のとおりである。すなわちロタンの族長、ショバルの族長、ヂベオンの族長、アナの族長、

創 36:30

 デションの族長、エゼルの族長、デシャンの族長。これらはホリびとから出た族長であって、その氏族に従ってセイルの地におった者である。

創 36:31

 イスラエルの人々を治める王がまだなかった時、エドムの地を治めた王たちは次のとおりである。

創 36:32

 ベオルの子ベラはエドムを治め、その都の名はデナバであった。

創 36:33

 ベラが死んで、ボズラのゼラの子ヨバブがこれに代って王となった。

創 36:34

 ヨバブが死んで、テマンびとの地のホシャムがこれに代って王となった。

創 36:35

 ホシャムが死んで、ベダデの子ハダデがこれに代って王となった。彼はモアブの野でミデアンを撃った者である。その都の名はアビテであった。

創 36:36

 ハダデが死んで、マスレカのサムラがこれに代って王となった。

創 36:37

 サムラが死んでユフラテ川のほとりにあるレホボテのサウルがこれに代って王となった。

創 36:38

 サウルが死んでアクボルの子バアル・ハナンがこれに代って王となった。

創 36:39

 アクボルの子バアル・ハナンが死んで、ハダルがこれに代って王となった。その都の名はパウであった。その妻の名はメヘタベルといって、メザハブの娘マテレデの娘であった。

創 36:40

 エサウから出た族長の名は、その氏族と住所と名に従って言えば次のとおりである。すなわちテムナの族長、アルワの族長、エテテの族長、

創 36:41

 アホリバマの族長、エラの族長、ピノンの族長、

創 36:42

 ケナズの族長、テマンの族長、ミブザルの族長、

創 36:43

 マグデエルの族長、イラムの族長。これらはエドムの族長たちであって、その領地内の住所に従っていったものである。エドムびとの先祖はエサウである。

 


第37章


創 37:1

 ヤコブは父の寄留の地、すなわちカナンの地に住んだ。

創 37:2

 ヤコブの子孫は次のとおりである。ヨセフは十七歳の時、兄弟たちと共に羊の群れを飼っていた。彼はまだ子供で、父の妻たちビルハとジルパとの子らと共にいたが、ヨセフは彼らの悪いうわさを父に告げた。

創 37:3

 ヨセフは年寄り子であったから、イスラエルは他のどの子よりも彼を愛して、彼のために長そでの着物をつくった。

創 37:4

 兄弟たちは父がどの兄弟よりも彼を愛するのを見て、彼を憎み、穏やかに彼に語ることができなかった。

創 37:5

 ある時、ヨセフは夢を見て、それを兄弟たちに話したので、彼らは、ますます彼を憎んだ。

創 37:6

 ヨセフは彼らに言った、「どうぞわたしが見た夢を聞いてください。

創 37:7

 わたしたちが畑の中で束を結わえていたとき、わたしの束が起きて立つと、あなたがたの束がまわりにきて、わたしの束を拝みました」。

創 37:8

 すると兄弟たちは彼に向かって、「あなたはほんとうにわたしたちの王になるのか。あなたは実際わたしたちを治めるのか」と言って、彼の夢とその言葉のゆえにますます彼を憎んだ。

創 37:9

 ヨセフはまた一つの夢を見て、それを兄弟たちに語って言った、「わたしはまた夢を見ました。日と月と十一の星とがわたしを拝みました」。

創 37:10

 彼はこれを父と兄弟たちに語ったので、父は彼をとがめて言った、「あなたが見たその夢はどういうのか。ほんとうにわたしとあなたの母と、兄弟たちとが行って地に伏し、あなたを拝むのか」。

創 37:11

 兄弟たちは彼をねたんだ。しかし父はこの言葉を心にとめた。

創 37:12

 さて兄弟たちがシケムに行って、父の羊の群れを飼っていたとき、

創 37:13

 イスラエルはヨセフに言った、「あなたの兄弟たちはシケムで羊を飼っているではないか。さあ、あなたを彼らの所へつかわそう」。ヨセフは父に言った、「はい、行きます」。

創 37:14

 父は彼に言った、「どうか、行って、あなたの兄弟たちは無事であるか、また群れは無事であるか見てきて、わたしに知らせてください」。父が彼をヘブロンの谷からつかわしたので、彼はシケムに行った。

創 37:15

 ひとりの人が彼に会い、彼が野をさまよっていたので、その人は彼に尋ねて言った、「あなたは何を捜しているのですか」。

創 37:16

 彼は言った、「兄弟たちを捜しているのです。彼らが、どこで羊を飼っているのか、どうぞわたしに知らせてください」。

創 37:17

 その人は言った、「彼らはここを去りました。彼らが『ドタンへ行こう』と言うのをわたしは聞きました」。そこでヨセフは兄弟たちのあとを追って行って、ドタンで彼らに会った。

創 37:18

 ヨセフが彼らに近づかないうちに、彼らははるかにヨセフを見て、これを殺そうと計り、

創 37:19

 互に言った、「あの夢見る者がやって来る。

創 37:20

 さあ、彼を殺して穴に投げ入れ、悪い獣が彼を食ったと言おう。そして彼の夢がどうなるか見よう」。

創 37:21

 ルベンはこれを聞いて、ヨセフを彼らの手から救い出そうとして言った、「われわれは彼の命を取ってはならない」。

創 37:22

 ルベンはまた彼らに言った、「血を流してはいけない。彼を荒野のこの穴に投げ入れよう。彼に手をくだしてはならない」。これはヨセフを彼らの手から救いだして父に返すためであった。

創 37:23

 さて、ヨセフが兄弟たちのもとへ行くと、彼らはヨセフの着物、彼が着ていた長そでの着物をはぎとり、

創 37:24

 彼を捕えて穴に投げ入れた。その穴はからで、その中に水はなかった。

創 37:25

 こうして彼らはすわってパンを食べた。時に彼らが目をあげて見ると、イシマエルびとの隊商が、らくだに香料と、乳香と、もつやくとを負わせてエジプトへ下り行こうとギレアデからやってきた。  

創 37:26

 そこでユダは兄弟たちに言った、「われわれが弟を殺し、その血を隠して何の益があろう。

創 37:27

 さあ、われわれは彼をイシマエルびとに売ろう。彼はわれわれの兄弟、われわれの肉身だから、彼に手を下してはならない」。兄弟たちはこれを聞き入れた。

創 37:28

 時にミデアンびとの商人たちが通りかかったので、彼らはヨセフを穴から引き上げ、銀二十シケルでヨセフをイシマエルびとに売った。彼らはヨセフをエジプトへ連れて行った。

創 37:29

 さてルベンは穴に帰って見たが、ヨセフが穴の中にいなかったので、彼は衣服を裂き、

創 37:30

 兄弟たちのもとに帰って言った、「あの子はいない。ああ、わたしはどこへ行くことができよう」。

創 37:31

 彼らはヨセフの着物を取り、雄やぎを殺して、着物をその血に浸し、

創 37:32

 その長そでの着物を父に持ち帰って言った、「わたしたちはこれを見つけましたが、これはあなたの子の着物か、どうか見さだめてください」。

創 37:33

 父はこれを見さだめて言った、「わが子の着物だ。悪い獣が彼を食ったのだ。確かにヨセフはかみ裂かれたのだ」。

創 37:34

 そこでヤコブは衣服を裂き、荒布を腰にまとって、長い間その子のために嘆いた。

創 37:35

 子らと娘らとは皆立って彼を慰めようとしたが、彼は慰められるのを拒んで言った、「いや、わたしは嘆きながら陰府に下って、わが子のもとへ行こう」。こうして父は彼のために泣いた。

創 37:36

 さて、かのミデアンびとらはエジプトでパロの役人、侍衛長ポテパルにヨセフを売った。


第38章


創 38:1

 そのころユダは兄弟たちを離れて下り、アドラムびとで、名をヒラという者の所へ行った。

創 38:2

 ユダはその所で、名をシュアというカナンびとの娘を見て、これをめとり、その所にはいった。

創 38:3

 彼女はみごもって男の子を産んだので、ユダは名をエルと名づけた。

創 38:4

 彼女は再びみごもって男の子を産み、名をオナンと名づけた。

創 38:5

 また重ねて、男の子を産み、名をシラと名づけた。彼女はこの男の子を産んだとき、クジブにおった。

創 38:6

 ユダは長子エルのために、名をタマルという妻を迎えた。

創 38:7

 しかしユダの長子エルは主の前に悪い者であったので、主は彼を殺された。

創 38:8

 そこでユダはオナンに言った、「兄の妻の所にはいって、彼女をめとり、兄に子供を得させなさい」。

創 38:9

 しかしオナンはその子が自分のものとならないのを知っていたので、兄の妻の所にはいった時、兄に子を得させないために地に洩らした。

創 38:10

 彼のした事は主の前に悪かったので、主は彼をも殺された。

創 38:11

 そこでユダはその子の妻タマルに言った、「わたしの子シラが成人するまで、寡婦のままで、あなたの父の家にいなさい」。彼は、シラもまた兄弟たちのように死ぬかもしれないと、思ったからである。それでタマルは行って父の家におった。

創 38:12

 日がたってシュアの娘ユダの妻は死んだ。その後、ユダは喪を終ってその友アドラムびとヒラと共にテムナに上り、自分の羊の毛を切る者のところへ行った。

創 38:13

 時に、ひとりの人がタマルに告げて、「あなたのしゅうとが羊の毛を切るためにテムナに上って来る」と言ったので、

創 38:14

 彼女は寡婦の衣服を脱ぎすて、被衣で身をおおい隠して、テムナへ行く道のかたわらにあるエナイムの入口にすわっていた。彼女はシラが成人したのに、自分がその妻にされないのを知ったからである。

創 38:15

 ユダは彼女を見たとき、彼女が顔をおおっていたため、遊女だと思い、

創 38:16

 道のかたわらで彼女に向かって言った、「さあ、あなたの所にはいらせておくれ」。彼はこの女がわが子の妻であることを知らなかったからである。彼女は言った、「わたしの所にはいるため、何をくださいますか」。

創 38:17

 ユダは言った、「群れのうちのやぎの子をあなたにあげよう」。彼女は言った、「それをくださるまで、しるしをわたしにくださいますか」。

創 38:18

 ユダは言った、「どんなしるしをあげようか」。彼女は言った、「あなたの印と紐と、あなたの手にあるつえとを」。彼はこれらを与えて彼女の所にはいった。彼女はユダによってみごもった。

創 38:19

 彼女は起きて去り、被衣を脱いで寡婦の衣服を着た。

創 38:20

 やがてユダはその女からしるしを取りもどそうと、その友アドラムびとに託してやぎの子を送ったけれども、その女を見いだせなかった。

創 38:21

 そこで彼はその所の人々に尋ねて言った、「エナイムで道のかたわらにいた遊女はどこにいますか」。彼らは言った、「ここには遊女はいません」。

創 38:22

 彼はユダのもとに帰って言った、「わたしは彼女を見いだせませんでした。またその所の人々は、『ここには遊女はいない』と言いました」。

創 38:23

 そこでユダは言った、「女に持たせておこう。わたしたちは恥をかくといけないから。とにかく、わたしはこのやぎの子を送ったが、あなたは彼女を見いだせなかったのだ」。

創 38:24

 ところが三月ほどたって、ひとりの人がユダに言った、「あなたの嫁タマルは姦淫しました。そのうえ、彼女は姦淫によってみごもりました」。ユダは言った、「彼女を引き出して焼いてしまえ」。

創 38:25

 彼女は引き出された時、そのしゅうとに人をつかわして言った、「わたしはこれをもっている人によって、みごもりました」。彼女はまた言った、「どうか、この印と、紐と、つえとはだれのものか、見定めてください」。

創 38:26

 ユダはこれを見定めて言った、「彼女はわたしよりも正しい。わたしが彼女をわが子シラに与えなかったためである」。彼は再び彼女を知らなかった。

創 38:27

 さて彼女の出産の時がきたが、胎内には、ふたごがあった。

創 38:28

 出産の時に、ひとりの子が手を出したので、産婆は、「これがさきに出た」と言い、緋の糸を取って、その手に結んだ。

創 38:29

 そして、その子が手をひっこめると、その弟が出たので、「どうしてあなたは自分で破って出るのか」と言った。これによって名はペレヅと呼ばれた。

創 38:30

 その後、手に緋の糸のある兄が出たので、名はゼラと呼ばれた。


第39


創 39:1

 さてヨセフは連れられてエジプトに下ったが、パロの役人で侍衛長であったエジプトびとポテパルは、彼をそこに連れ下ったイシマエルびとらの手から買い取った。

創 39:2

 主がヨセフと共におられたので、彼は幸運な者となり、その主人エジプトびとの家におった。

創 39:3

 その主人は主が彼とともにおられることと、主が彼の手のすることをすべて栄えさせられるのを見た。

創 39:4

 そこで、ヨセフは彼の前に恵みを得、そのそば近く仕えた。彼はヨセフに家をつかさどらせ、持ち物をみな彼の手にゆだねた。

創 39:5

 彼がヨセフに家とすべての持ち物をつかさどらせた時から、主はヨセフのゆえにそのエジプトびとの家を恵まれたので、主の恵みは彼の家と畑とにあるすべての持ち物に及んだ。

創 39:6

 そこで彼は持ち物をみなヨセフの手にゆだねて、自分が食べる物のほかは、何をも顧みなかった。さてヨセフは姿がよく、顔が美しかった。

創 39:7

 これらの事の後、主人の妻はヨセフに目をつけて言った、「わたしと寝なさい」。

創 39:8

 ヨセフは拒んで、主人の妻に言った、「御主人はわたしがいるので家の中の何をも顧みず、その持ち物をみなわたしの手にゆだねられました。

創 39:9

 この家にはわたしよりも大いなる者はありません。また御主人はあなたを除いては、何をもわたしに禁じられませんでした。あなたが御主人の妻であるからです。どうしてわたしはこの大きな悪をおこなって、神に罪を犯すことができましょう」。

創 39:10

 彼女は毎日ヨセフに言い寄ったけれども、ヨセフは聞きいれず、彼女と寝なかった。また共にいなかった。

創 39:11

 ある日ヨセフが務をするために家にはいった時、家の者がひとりもそこにいなかったので、

創 39:12

 彼女はヨセフの着物を捕えて、「わたしと寝なさい」と言った。ヨセフは着物を彼女の手に残して外にのがれ出た。

創 39:13

 彼女はヨセフが着物を自分の手に残して外にのがれたのを見て、

創 39:14

 その家の者どもを呼び、彼らに告げて言った、「主人がわたしたちの所に連れてきたヘブルびとは、わたしたちに戯れます。彼はわたしと寝ようとして、わたしの所にはいったので、わたしは大声で叫びました。

創 39:15

 彼はわたしが声をあげて叫ぶのを聞くと、着物をわたしの所に残して外にのがれ出ました」。

創 39:16

 彼女はその着物をかたわらに置いて、主人の帰って来るのを待った。

創 39:17

 そして彼女は次のように主人に告げた、「あなたがわたしたちに連れてこられたヘブルのしもべはわたしに戯れようとして、わたしの所にはいってきました。

創 39:18

 わたしが声をあげて叫んだので、彼は着物をわたしの所に残して外にのがれました」。

創 39:19

 主人はその妻が「あなたのしもべは、わたしにこんな事をした」と告げる言葉を聞いて、激しく怒った。

創 39:20

 そしてヨセフの主人は彼を捕えて、王の囚人をつなぐ獄屋に投げ入れた。こうしてヨセフは獄屋の中におったが、

創 39:21

 主はヨセフと共におられて彼にいつくしみを垂れ、獄屋番の恵みをうけさせられた。

創 39:22

 獄屋番は獄屋におるすべての囚人をヨセフの手にゆだねたので、彼はそこでするすべての事をおこなった。

創 39:23

 獄屋番は彼の手にゆだねた事はいっさい顧みなかった。主がヨセフと共におられたからである。主は彼のなす事を栄えさせられた。


第40章


創 40:1

 これらの事の後、エジプト王の給仕役と料理役とがその主君エジプト王に罪を犯した。

創 40:2

 パロはふたりの役人、すなわち給仕役の長と料理役の長に向かって憤り、

創 40:3

 侍衛長の家の監禁所、すなわちヨセフがつながれている獄屋に入れた。

創 40:4

 侍衛長はヨセフに命じて彼らと共におらせたので、ヨセフは彼らに仕えた。こうして彼らは監禁所で幾日かを過ごした。

創 40:5

 さて獄屋につながれたエジプト王の給仕役と料理役のふたりは一夜のうちにそれぞれ意味のある夢を見た。

創 40:6

 ヨセフが朝、彼らのところへ行って見ると、彼らは悲しみに沈んでいた。

創 40:7

 そこでヨセフは自分と一緒に主人の家の監禁所にいるパロの役人たちに尋ねて言った、「どうして、きょう、あなたがたの顔色が悪いのですか」。

創 40:8

 彼らは言った、「わたしたちは夢を見ましたが、解いてくれる者がいません」。ヨセフは彼らに言った、「解くことは神によるのではありませんか。どうぞ、わたしに話してください」。

創 40:9

 給仕役の長はその夢をヨセフに話して言った、「わたしが見た夢で、わたしの前に一本のぶどうの木がありました。

創 40:10

 そのぶどうの木に三つの枝があって、芽を出し、花が咲き、ぶどうのふさが熟しました。

創 40:11

 時にわたしの手に、パロの杯があって、わたしはそのぶどうを取り、それをパロの杯にしぼり、その杯をパロの手にささげました」。

創 40:12

 ヨセフは言った、「その解き明かしはこうです。三つの枝は三日です。

創 40:13

 今から三日のうちにパロはあなたの頭を上げて、あなたを元の役目に返すでしょう。あなたはさきに給仕役だった時にされたように、パロの手に杯をささげられるでしょう。

創 40:14

 それで、あなたがしあわせになられたら、わたしを覚えていて、どうかわたしに恵みを施し、わたしの事をパロに話して、この家からわたしを出してください。

創 40:15

 わたしは、実はヘブルびとの地からさらわれてきた者です。またここでもわたしは地下の獄屋に入れられるような事はしなかったのです」。

創 40:16

 料理役の長はその解き明かしの良かったのを見て、ヨセフに言った、「わたしも夢を見たが、白いパンのかごが三つ、わたしの頭の上にあった。

創 40:17

 一番上のかごには料理役がパロのために作ったさまざまの食物があったが、鳥がわたしの頭の上のかごからそれを食べていた」。

創 40:18

 ヨセフは答えて言った、「その解き明かしはこうです。三つのかごは三日です。

創 40:19

 今から三日のうちにパロはあなたの頭を上げ離して、あなたを木に掛けるでしょう。そして鳥があなたの肉を食い取るでしょう」。

創 40:20

 さて三日目はパロの誕生日であったので、パロはすべての家来のためにふるまいを設け、家来のうちの給仕役の長の頭と、料理役の長の頭を上げた。

創 40:21

 すなわちパロは給仕役の長を給仕役の職に返したので、彼はパロの手に杯をささげた。

創 40:22

 しかしパロは料理役の長を木に掛けた。ヨセフが彼らに解き明かしたとおりである。

創 40:23

 ところが、給仕役の長はヨセフを思い出さず、忘れてしまった。


第41章


創 41:1

 二年の後パロは夢を見た。夢に、彼はナイル川のほとりに立っていた。

創 41:2

 すると、その川から美しい、肥え太った七頭の雌牛が上がってきて葦を食っていた。

創 41:3

 その後、また醜い、やせ細った他の七頭の雌牛が川から上がってきて、川の岸にいた雌牛のそばに立ち、

創 41:4

 その醜い、やせ細った雌牛が、あの美しい、肥えた七頭の雌牛を食いつくした。ここでパロは目が覚めた。

創 41:5

 彼はまた眠って、再び夢を見た。夢に、一本の茎に太った良い七つの穂が出てきた。

創 41:6

 その後また、やせて、東風に焼けた七つの穂が出てきて、

創 41:7

 そのやせた穂が、あの太って実った七つの穂をのみつくした。ここでパロは目が覚めたが、それは夢であった。

創 41:8

 朝になって、パロは心が騒ぎ、人をつかわして、エジプトのすべての魔術師とすべての知者とを呼び寄せ、彼らに夢を告げたが、これをパロに解き明かしうる者がなかった。

創 41:9

 そのとき給仕役の長はパロに告げて言った、「わたしはきょう、自分のあやまちを思い出しました。

創 41:10

 かつてパロがしもべらに向かって憤り、わたしと料理役の長とを侍衛長の家の監禁所にお入れになった時、

創 41:11

 わたしも彼も一夜のうちに夢を見、それぞれ意味のある夢を見ましたが、

創 41:12

 そこに侍衛長のしもべで、ひとりの若いヘブルびとがわれわれと共にいたので、彼に話したところ、彼はわれわれの夢を解き明かし、その夢によって、それぞれ解き明かしをしました。

創 41:13

 そして彼が解き明かしたとおりになって、パロはわたしを職に返し、彼を木に掛けられました」。

創 41:14

 そこでパロは人をつかわしてヨセフを呼んだ。人々は急いで彼を地下の獄屋から出した。ヨセフは、ひげをそり、着物を着替えてパロのもとに行った。

創 41:15

 パロはヨセフに言った、「わたしは夢を見たが、これを解き明かす者がない。聞くところによると、あなたは夢を聞いて、解き明かしができるそうだ」。

創 41:16

 ヨセフはパロに答えて言った、「いいえ、わたしではありません。神がパロに平安をお告げになりましょう」。

創 41:17

 パロはヨセフに言った、「夢にわたしは川の岸に立っていた。

創 41:18

 その川から肥え太った、美しい七頭の雌牛が上がってきて葦を食っていた。

創 41:19

 その後、弱く、非常に醜い、やせ細った他の七頭の雌牛がまた上がってきた。わたしはエジプト全国で、このような醜いものをまだ見たことがない。

創 41:20

 ところがそのやせた醜い雌牛が、初めの七頭の肥えた雌牛を食いつくしたが、

創 41:21

 腹にはいっても、腹にはいった事が知れず、やはり初めのように醜かった。ここでわたしは目が覚めた。

創 41:22

 わたしはまた夢をみた。一本の茎に七つの実った良い穂が出てきた。

創 41:23

 その後、やせ衰えて、東風に焼けた七つの穂が出てきたが、

創 41:24

 そのやせた穂が、あの七つの良い穂をのみつくした。わたしは魔術師に話したが、わたしにそのわけを示しうる者はなかった」。

創 41:25

 ヨセフはパロに言った、「パロの夢は一つです。神がこれからしようとすることをパロに示されたのです。

創 41:26

 七頭の良い雌牛は七年です。七つの良い穂も七年で、夢は一つです。

創 41:27

 あとに続いて、上がってきた七頭のやせた醜い雌牛は七年で、東風に焼けた実の入らない七つの穂は七年のききんです。

創 41:28

 わたしがパロに申し上げたように、神がこれからしようとすることをパロに示されたのです。

創 41:29

 エジプト全国に七年の大豊作があり、

創 41:30

 その後七年のききんが起り、その豊作はみなエジプトの国で忘れられて、そのききんは国を滅ぼすでしょう。

創 41:31

 後に来るそのききんが、非常に激しいから、その豊作は国のうちで記憶されなくなるでしょう。

創 41:32

 パロが二度重ねて夢を見られたのは、この事が神によって定められ、神がすみやかにこれをされるからです。

創 41:33

 それゆえパロは今、さとく、かつ賢い人を尋ね出してエジプトの国を治めさせなさい。

創 41:34

 パロはこうして国中に監督を置き、その七年の豊作のうちに、エジプトの国の産物の五分の一を取り、

創 41:35

 続いて来る良い年々のすべての食糧を彼らに集めさせ、穀物を食糧として、パロの手で町々にたくわえ守らせなさい。

創 41:36

 こうすれば食糧は、エジプトの国に臨む七年のききんに備えて、この国のためにたくわえとなり、この国はききんによって滅びることがないでしょう」。

創 41:37

 この事はパロとそのすべての家来たちの目にかなった。

創 41:38

 そこでパロは家来たちに言った、「われわれは神の霊をもつこのような人を、ほかに見いだし得ようか」。

創 41:39

 またパロはヨセフに言った、「神がこれを皆あなたに示された。あなたのようにさとく賢い者はない。

創 41:40

 あなたはわたしの家を治めてください。わたしの民はみなあなたの言葉に従うでしょう。わたしはただ王の位でだけあなたにまさる」。

創 41:41

 パロは更にヨセフに言った、「わたしはあなたをエジプト全国のつかさとする」。

創 41:42

 そしてパロは指輪を手からはずして、ヨセフの手にはめ、亜麻布の衣服を着せ、金の鎖をくびにかけ、

創 41:43

 自分の第二の車に彼を乗せ、「ひざまずけ」とその前に呼ばわらせ、こうして彼をエジプト全国のつかさとした。

創 41:44

 ついでパロはヨセフに言った、「わたしはパロである。あなたの許しがなければエジプト全国で、だれも手足を上げることはできない」。

創 41:45

 パロはヨセフの名をザフナテ・パネアと呼び、オンの祭司ポテペラの娘アセナテを妻として彼に与えた。ヨセフはエジプトの国を巡った。

創 41:46

 ヨセフがエジプトの王パロの前に立った時は三十歳であった。ヨセフはパロの前を出て、エジプト全国をあまねく巡った。

創 41:47

 さて七年の豊作のうちに地は豊かに物を産した。

創 41:48

 そこでヨセフはエジプトの国にできたその七年間の食糧をことごとく集め、その食糧を町々に納めさせた。すなわち町の周囲にある畑の食糧をその町の中に納めさせた。

創 41:49

 ヨセフは穀物を海の砂のように、非常に多くたくわえ、量りきれなくなったので、ついに量ることをやめた。

創 41:50

 ききんの年の来る前にヨセフにふたりの子が生れた。これらはオンの祭司ポテペラの娘アセナテが産んだのである。

創 41:51

 ヨセフは長子の名をマナセと名づけて言った、「神がわたしにすべての苦難と父の家のすべての事を忘れさせられた」。

創 41:52

 また次の子の名をエフライムと名づけて言った、「神がわたしを悩みの地で豊かにせられた」。

創 41:53

 エジプトの国にあった七年の豊作が終り、

創 41:54

 ヨセフの言ったように七年のききんが始まった。そのききんはすべての国にあったが、エジプト全国には食物があった。

創 41:55

 やがてエジプト全国が飢えた時、民はパロに食物を叫び求めた。そこでパロはすべてのエジプトびとに言った、「ヨセフのもとに行き、彼の言うようにせよ」。

創 41:56

 ききんが地の全面にあったので、ヨセフはすべての穀倉を開いて、エジプトびとに売った。ききんはますますエジプトの国に激しくなった。

創 41:57

 ききんが全地に激しくなったので、諸国の人々がエジプトのヨセフのもとに穀物を買うためにきた。


第42章


創 42:1

 ヤコブはエジプトに穀物があると知って、むすこたちに言った、「あなたがたはなぜ顔を見合わせているのですか」。

創 42:2

 また言った、「エジプトに穀物があるということだが、あなたがたはそこへ下って行って、そこから、われわれのため穀物を買ってきなさい。そうすれば、われわれは生きながらえて、死を免れるであろう」。

創 42:3

 そこでヨセフの十人の兄弟は穀物を買うためにエジプトへ下った。

創 42:4

 しかし、ヤコブはヨセフの弟ベニヤミンを兄弟たちと一緒にやらなかった。彼が災に会うのを恐れたからである。

創 42:5

 こうしてイスラエルの子らは穀物を買おうと人々に交じってやってきた。カナンの地にききんがあったからである。

創 42:6

 ときにヨセフは国のつかさであって、国のすべての民に穀物を売ることをしていた。ヨセフの兄弟たちはきて、地にひれ伏し、彼を拝した。

創 42:7

 ヨセフは兄弟たちを見て、それと知ったが、彼らに向かっては知らぬ者のようにし、荒々しく語った。すなわち彼らに言った、「あなたがたはどこからきたのか」。彼らは答えた、「食糧を買うためにカナンの地からきました」。

創 42:8

 ヨセフは、兄弟たちであるのを知っていたが、彼らはヨセフとは知らなかった。

創 42:9

 ヨセフはかつて彼らについて見た夢を思い出して、彼らに言った、「あなたがたは回し者で、この国のすきをうかがうためにきたのです」。

創 42:10

 彼らはヨセフに答えた、「いいえ、わが主よ、しもべらはただ食糧を買うためにきたのです。

創 42:11

 われわれは皆、ひとりの人の子で、真実な者です。しもべらは回し者ではありません」。

創 42:12

 ヨセフは彼らに言った、「いや、あなたがたはこの国のすきをうかがうためにきたのです」。

創 42:13

 彼らは言った、「しもべらは十二人兄弟で、カナンの地にいるひとりの人の子です。末の弟は今、父と一緒にいますが、他のひとりはいなくなりました」。

創 42:14

 ヨセフは彼らに言った、「わたしが言ったとおり、あなたがたは回し者です。

創 42:15

 あなたがたをこうしてためしてみよう。パロのいのちにかけて誓います。末の弟がここにこなければ、あなたがたはここを出ることはできません。

創 42:16

 あなたがたのひとりをやって弟を連れてこさせなさい。それまであなたがたをつないでおいて、あなたがたに誠実があるかどうか、あなたがたの言葉をためしてみよう。パロのいのちにかけて誓います。あなたがたは確かに回し者です」。

創 42:17

 ヨセフは彼らをみな一緒に三日の間、監禁所に入れた。

創 42:18

 三日目にヨセフは彼らに言った、「こうすればあなたがたは助かるでしょう。わたしは神を恐れます。

創 42:19

 もしあなたがたが真実な者なら、兄弟のひとりをあなたがたのいる監禁所に残し、あなたがたは穀物を携えて行って、家族の飢えを救いなさい。

創 42:20

 そして末の弟をわたしのもとに連れてきなさい。そうすればあなたがたの言葉のほんとうであることがわかって、死を免れるでしょう」。彼らはそのようにした。

創 42:21

 彼らは互に言った、「確かにわれわれは弟の事で罪がある。彼がしきりに願った時、その心の苦しみを見ながら、われわれは聞き入れなかった。それでこの苦しみに会うのだ」。

創 42:22

 ルベンが彼らに答えて言った、「わたしはあなたがたに、この子供に罪を犯すなと言ったではないか。それにもかかわらず、あなたがたは聞き入れなかった。それで彼の血の報いを受けるのです」。

創 42:23

 彼らはヨセフが聞きわけているのを知らなかった。相互の間に通訳者がいたからである。

創 42:24

 ヨセフは彼らを離れて行って泣き、また帰ってきて彼らと語り、そのひとりシメオンを捕えて、彼らの目の前で縛った。

創 42:25

 そしてヨセフは人々に命じて、彼らの袋に穀物を満たし、めいめいの銀を袋に返し、道中の食料を与えさせた。ヨセフはこのように彼らにした。

創 42:26

 彼らは穀物をろばに負わせてそこを去った。

創 42:27

 そのひとりが宿で、ろばに飼葉をやるため袋をあけて見ると、袋の口に自分の銀があった。

創 42:28

 彼は兄弟たちに言った、「わたしの銀は返してある。しかも見よ、それは袋の中にある」。そこで彼らは非常に驚き、互に震えながら言った、「神がわれわれにされたこのことは何事だろう」。

創 42:29

 こうして彼らはカナンの地にいる父ヤコブのもとに帰り、その身に起った事をことごとく告げて言った、

創 42:30

 「あの国の君は、われわれに荒々しく語り、国をうかがう回し者だと言いました。

創 42:31

 われわれは彼に答えました、『われわれは真実な者であって回し者ではない。

創 42:32

 われわれは十二人兄弟で、同じ父の子である。ひとりはいなくなり、末の弟は今父と共にカナンの地にいる』。

創 42:33

 その国の君であるその人はわれわれに言いました、『わたしはこうしてあなたがたの真実な者であるのを知ろう。あなたがたは兄弟のひとりをわたしのもとに残し、穀物を携えて行って、家族の飢えを救いなさい。

創 42:34

 そして末の弟をわたしのもとに連れてきなさい。そうすればあなたがたが回し者ではなく、真実な者であるのを知って、あなたがたの兄弟を返し、この国であなたがたに取引させましょう』」。

創 42:35

 彼らが袋のものを出して見ると、めいめいの金包みが袋の中にあったので、彼らも父も金包みを見て恐れた。

創 42:36

 父ヤコブは彼らに言った、「あなたがたはわたしに子を失わせた。ヨセフはいなくなり、シメオンもいなくなった。今度はベニヤミンをも取り去る。これらはみなわたしの身にふりかかって来るのだ」。

創 42:37

 ルベンは父に言った、「もしわたしが彼をあなたのもとに連れて帰らなかったら、わたしのふたりの子を殺してください。ただ彼をわたしの手にまかせてください。わたしはきっと、あなたのもとに彼を連れて帰ります」。

創 42:38

 ヤコブは言った、「わたしの子はあなたがたと共に下って行ってはならない。彼の兄は死に、ただひとり彼が残っているのだから。もしあなたがたの行く道で彼が災に会えば、あなたがたは、しらがのわたしを悲しんで陰府に下らせるであろう」。


第43章


創 43:1

 ききんはその地に激しかった。

創 43:2

 彼らがエジプトから携えてきた穀物を食い尽した時、父は彼らに言った、「また行って、われわれのために少しの食糧を買ってきなさい」。

創 43:3

 ユダは父に答えて言った、「あの人はわれわれをきびしく戒めて、弟が一緒でなければ、わたしの顔を見てはならないと言いました。

創 43:4

 もしあなたが弟をわれわれと一緒にやってくださるなら、われわれは下って行って、あなたのために食糧を買ってきましょう。

創 43:5

 しかし、もし彼をやられないなら、われわれは下って行きません。あの人がわれわれに、弟が一緒でなければわたしの顔を見てはならないと言ったのですから」。

創 43:6

 イスラエルは言った、「なぜ、もうひとりの弟があるとあの人に言って、わたしを苦しめるのか」。

創 43:7

 彼らは言った、「あの人がわれわれと一族とのことを問いただして、父はまだ生きているか、もうひとりの弟があるかと言ったので、問われるままに答えましたが、その人が、弟を連れてこいと言おうとは、どうして知ることができたでしょう」。

創 43:8

 ユダは父イスラエルに言った、「あの子をわたしと一緒にやってくだされば、われわれは立って行きましょう。そしてわれわれもあなたも、われわれの子供らも生きながらえ、死を免れましょう。

創 43:9

 わたしが彼の身を請け合います。わたしの手から彼を求めなさい。もしわたしが彼をあなたのもとに連れ帰って、あなたの前に置かなかったら、わたしはあなたに対して永久に罪を負いましょう。

創 43:10

 もしわれわれがこんなにためらわなかったら、今ごろは二度も行ってきたでしょう」。

創 43:11

 父イスラエルは彼らに言った、「それではこうしなさい。この国の名産を器に入れ、携え下ってその人に贈り物にしなさい。すなわち少しの乳香、少しの蜜、香料、もつやく、ふすだしう、あめんどう。

創 43:12

 そしてその上に、倍額の銀を手に持って行きなさい。また袋の口に返してあった銀は持って行って返しなさい。たぶんそれは誤りであったのでしょう。

創 43:13

 弟も連れ、立って、またその人の所へ行きなさい。

創 43:14

 どうか全能の神がその人の前であなたがたをあわれみ、もうひとりの兄弟とベニヤミンとを、返させてくださるように。もしわたしが子を失わなければならないのなら、失ってもよい」。

創 43:15

 そこでその人々は贈り物を取り、また倍額の銀を携え、ベニヤミンを連れ、立ってエジプトへ下り、ヨセフの前に立った。

創 43:16

 ヨセフはベニヤミンが彼らと共にいるのを見て、家づかさに言った、「この人々を家に連れて行き、獣をほふって、したくするように。この人々は昼、わたしと一緒に食事をします」。

創 43:17

 その人はヨセフの言ったようにして、この人々をヨセフの家へ連れて行った。

創 43:18

 ところがこの人々はヨセフの家へ連れて行かれたので恐れて言った、「初めの時に袋に返してあったあの銀のゆえに、われわれを引き入れたのです。そしてわれわれを襲い、攻め、捕えて奴隷とし、われわれのろばをも奪うのです」。

創 43:19

 彼らはヨセフの家づかさに近づいて、家の入口で、言った、

創 43:20

 「ああ、わが主よ、われわれは最初、食糧を買うために下ってきたのです。

創 43:21

 ところが宿に行って袋をあけて見ると、めいめいの銀は袋の口にあって、銀の重さは元のままでした。それでわれわれはそれを持って参りました。

創 43:22

 そして食糧を買うために、ほかの銀をも持って下ってきました。われわれの銀を袋に入れた者が、だれであるかは分りません」。

創 43:23

 彼は言った、「安心しなさい。恐れてはいけません。その宝はあなたがたの神、あなたがたの父の神が、あなたがたの袋に入れてあなたがたに賜わったのです。あなたがたの銀はわたしが受け取りました」。そして彼はシメオンを彼らの所へ連れてきた。

創 43:24

 こうしてその人はこの人々をヨセフの家へ導き、水を与えて足を洗わせ、また、ろばに飼葉を与えた。

創 43:25

 彼らはその所で食事をするのだと聞き、贈り物を整えて、昼にヨセフの来るのを待った。

創 43:26

 さてヨセフが家に帰ってきたので、彼らはその家に携えてきた贈り物をヨセフにささげ、地に伏して、彼を拝した。

創 43:27

 ヨセフは彼らの安否を問うて言った、「あなたがたの父、あなたがたがさきに話していたその老人は無事ですか。なお生きながらえておられますか」。

創 43:28

 彼らは答えた、「あなたのしもべ、われわれの父は無事で、なお生きながらえています」。そして彼らは、頭をさげて拝した。

創 43:29

 ヨセフは目をあげて同じ母の子である弟ベニヤミンを見て言った、「これはあなたがたが前にわたしに話した末の弟ですか」。また言った、「わが子よ、どうか神があなたを恵まれるように」。

創 43:30

 ヨセフは弟なつかしさに心がせまり、急いで泣く場所をたずね、へやにはいって泣いた。

創 43:31

 やがて彼は顔を洗って出てきた。そして自分を制して言った、「食事にしよう」。

創 43:32

 そこでヨセフはヨセフ、彼らは彼ら、陪食のエジプトびとはエジプトびと、と別々に席に着いた。エジプトびとはヘブルびとと共に食事することができなかった。それはエジプトびとの忌むところであったからである。

創 43:33

 こうして彼らはヨセフの前に、長子は長子として、弟は弟としてすわらせられたので、その人々は互に驚いた。

創 43:34

 またヨセフの前から、めいめいの分が運ばれたが、ベニヤミンの分は他のいずれの者の分よりも五倍多かった。こうして彼らは飲み、ヨセフと共に楽しんだ。


第44章


創 44:1

 さてヨセフは家づかさに命じて言った、「この人々の袋に、運べるだけ多くの食糧を満たし、めいめいの銀を袋の口に入れておきなさい。

創 44:2

 またわたしの杯、銀の杯をあの年下の者の袋の口に、穀物の代金と共に入れておきなさい」。家づかさはヨセフの言葉のとおりにした。

創 44:3

 夜が明けると、その人々と、ろばとは送り出されたが、

創 44:4

 町を出て、まだ遠くへ行かないうちに、ヨセフは家づかさに言った、「立って、あの人々のあとを追いなさい。追いついて、彼らに言いなさい、『あなたがたはなぜ悪をもって善に報いるのですか。なぜわたしの銀の杯を盗んだのですか。

創 44:5

 これはわたしの主人が飲む時に使い、またいつも占いに用いるものではありませんか。あなたがたのした事は悪いことです』」。

創 44:6

 家づかさが彼らに追いついて、これらの言葉を彼らに告げたとき、

創 44:7

 彼らは言った、「わが主は、どうしてそのようなことを言われるのですか。しもべらは決してそのようなことはいたしません。

創 44:8

 袋の口で見つけた銀でさえ、カナンの地からあなたの所に持ち帰ったほどです。どうして、われわれは御主人の家から銀や金を盗みましょう。

創 44:9

 しもべらのうちのだれの所でそれが見つかっても、その者は死に、またわれわれはわが主の奴隷となりましょう」。

創 44:10

 家づかさは言った、「それではあなたがたの言葉のようにしよう。杯の見つかった者はわたしの奴隷とならなければならない。ほかの者は無罪です」。

創 44:11

 そこで彼らは、めいめい急いで袋を地におろし、ひとりひとりその袋を開いた。

創 44:12

 家づかさは年上から捜し始めて年下に終ったが、杯はベニヤミンの袋の中にあった。

創 44:13

 そこで彼らは衣服を裂き、おのおの、ろばに荷を負わせて町に引き返した。

創 44:14

 ユダと兄弟たちとは、ヨセフの家にはいったが、ヨセフがなおそこにいたので、彼らはその前で地にひれ伏した。

創 44:15

 ヨセフは彼らに言った、「あなたがたのこのしわざは何事ですか。わたしのような人は、必ず占い当てることを知らないのですか」。

創 44:16

 ユダは言った、「われわれはわが主に何を言い、何を述べ得ましょう。どうしてわれわれは身の潔白をあらわし得ましょう。神がしもべらの罪をあばかれました。われわれと、杯を持っていた者とは共にわが主の奴隷となりましょう」。

創 44:17

 ヨセフは言った、「わたしは決してそのようなことはしない。杯を持っている者だけがわたしの奴隷とならなければならない。ほかの者は安全に父のもとへ上って行きなさい」。

創 44:18

 この時ユダは彼に近づいて言った、「ああ、わが主よ、どうぞわが主の耳にひとこと言わせてください。しもべをおこらないでください。あなたはパロのようなかたです。

創 44:19

 わが主はしもべらに尋ねて、『父があるか、また弟があるか』と言われたので、

創 44:20

 われわれはわが主に言いました、『われわれには老齢の父があり、また年寄り子の弟があります。その兄は死んで、同じ母の子で残っているのは、ただこれだけですから父はこれを愛しています』。

創 44:21

 その時あなたはしもべらに言われました、『その者をわたしの所へ連れてきなさい。わたしはこの目で彼を見よう』。

創 44:22

 われわれはわが主に言いました。『その子供は父を離れることができません。もし父を離れたら父は死ぬでしょう』。

創 44:23

 しかし、あなたはしもべらに言われました、『末の弟が一緒に下ってこなければ、おまえたちは再びわたしの顔を見ることはできない』。

創 44:24

 それであなたのしもべである父のもとに上って、わが主の言葉を彼に告げました。

創 44:25

 ところで、父が『おまえたちは再び行って、われわれのために少しの食糧を買ってくるように』と言ったので、

創 44:26

 われわれは言いました、『われわれは下って行けません。もし末の弟が一緒であれば行きましょう。末の弟が一緒でなければ、あの人の顔を見ることができません』。

創 44:27

 あなたのしもべである父は言いました、『おまえたちの知っているとおり、妻はわたしにふたりの子を産んだ。

創 44:28

 ひとりは外へ出たが、きっと裂き殺されたのだと思う。わたしは今になっても彼を見ない。

創 44:29

 もしおまえたちがこの子をもわたしから取って行って、彼が災に会えば、おまえたちは、しらがのわたしを悲しんで陰府に下らせるであろう』。

創 44:30

 わたしがあなたのしもべである父のもとに帰って行くとき、もしこの子供が一緒にいなかったら、どうなるでしょう。父の魂は子供の魂に結ばれているのです。

創 44:31

 この子供がわれわれと一緒にいないのを見たら、父は死ぬでしょう。そうすればしもべらは、あなたのしもべであるしらがの父を悲しんで陰府に下らせることになるでしょう。

創 44:32

 しもべは父にこの子供の身を請け合って『もしわたしがこの子をあなたのもとに連れ帰らなかったら、わたしは父に対して永久に罪を負いましょう』と言ったのです。

創 44:33

 どうか、しもべをこの子供の代りに、わが主の奴隷としてとどまらせ、この子供を兄弟たちと一緒に上り行かせてください、

創 44:34

 この子供を連れずに、どうしてわたしは父のもとに上り行くことができましょう。父が災に会うのを見るに忍びません」。


第45章


創 45:1

 そこでヨセフはそばに立っているすべての人の前で、自分を制しきれなくなったので、「人は皆ここから出てください」と呼ばわった。それゆえヨセフが兄弟たちに自分のことを明かした時、ひとりも彼のそばに立っている者はなかった。

創 45:2

 ヨセフは声をあげて泣いた。エジプトびとはこれを聞き、パロの家もこれを聞いた。

創 45:3

 ヨセフは兄弟たちに言った、「わたしはヨセフです。父はまだ生きながらえていますか」。兄弟たちは答えることができなかった。彼らは驚き恐れたからである。

創 45:4

 ヨセフは兄弟たちに言った、「わたしに近寄ってください」。彼らが近寄ったので彼は言った、「わたしはあなたがたの弟ヨセフです。あなたがたがエジプトに売った者です。

創 45:5

 しかしわたしをここに売ったのを嘆くことも、悔むこともいりません。神は命を救うために、あなたがたよりさきにわたしをつかわされたのです。

創 45:6

 この二年の間、国中にききんがあったが、なお五年の間は耕すことも刈り入れることもないでしょう。

創 45:7

 神は、あなたがたのすえを地に残すため、また大いなる救をもってあなたがたの命を助けるために、わたしをあなたがたよりさきにつかわされたのです。

創 45:8

 それゆえわたしをここにつかわしたのはあなたがたではなく、神です。神はわたしをパロの父とし、その全家の主とし、またエジプト全国のつかさとされました。

創 45:9

 あなたがたは父のもとに急ぎ上って言いなさい、『あなたの子ヨセフが、こう言いました。神がわたしをエジプト全国の主とされたから、ためらわずにわたしの所へ下ってきなさい。

創 45:10

 あなたはゴセンの地に住み、あなたも、あなたの子らも、孫たちも、羊も牛も、その他のものもみな、わたしの近くにおらせます。

創 45:11

 ききんはなお五年つづきますから、あなたも、家族も、その他のものも、みな困らないように、わたしはそこで養いましょう』。

創 45:12

 あなたがたと弟ベニヤミンが目に見るとおり、あなたがたに口ずから語っているのはこのわたしです。

創 45:13

 あなたがたはエジプトでの、わたしのいっさいの栄えと、あなたがたが見るいっさいの事をわたしの父に告げ、急いでわたしの父をここへ連れ下りなさい」。

創 45:14

 そしてヨセフは弟ベニヤミンのくびを抱いて泣き、ベニヤミンも彼のくびを抱いて泣いた。

創 45:15

 またヨセフはすべての兄弟たちに口づけし、彼らを抱いて泣いた。そして後、兄弟たちは彼と語った。

創 45:16

 時に、「ヨセフの兄弟たちがきた」と言ううわさがパロの家に聞えたので、パロとその家来たちとは喜んだ。

創 45:17

 パロはヨセフに言った、「兄弟たちに言いなさい、『あなたがたは、こうしなさい。獣に荷を負わせてカナンの地へ行き、

創 45:18

 父と家族とを連れてわたしのもとへきなさい。わたしはあなたがたに、エジプトの地の良い物を与えます。あなたがたは、この国の最も良いものを食べるでしょう』。

創 45:19

 また彼らに命じなさい、『あなたがたは、こうしなさい。幼な子たちと妻たちのためにエジプトの地から車をもって行き、父を連れてきなさい。

創 45:20

 家財に心を引かれてはなりません。エジプト全国の良い物は、あなたがたのものだからです』」。

創 45:21

 イスラエルの子らはそのようにした。ヨセフはパロの命に従って彼らに車を与え、また途中の食料をも与えた。

創 45:22

 まためいめいに晴着を与えたが、ベニヤミンには銀三百シケルと晴着五着とを与えた。

創 45:23

 また彼は父に次のようなものを贈った。すなわちエジプトの良い物を負わせたろば十頭と、穀物、パン及び父の道中の食料を負わせた雌ろば十頭。

創 45:24

 こうしてヨセフは兄弟たちを送り去らせ、彼らに言った、「途中で争ってはなりません」。

創 45:25

 彼らはエジプトから上ってカナンの地に入り、父ヤコブのもとへ行って、

創 45:26

 彼に言った、「ヨセフはなお生きていてエジプト全国のつかさです」。ヤコブは気が遠くなった。彼らの言うことが信じられなかったからである。

創 45:27

 そこで彼らはヨセフが語った言葉を残らず彼に告げた。父ヤコブはヨセフが自分を乗せるために送った車を見て元気づいた。

創 45:28

 そしてイスラエルは言った、「満足だ。わが子ヨセフがまだ生きている。わたしは死ぬ前に行って彼を見よう」。


第46章


創 46:1

 イスラエルはその持ち物をことごとく携えて旅立ち、ベエルシバに行って、父イサクの神に犠牲をささげた。

創 46:2

 この時、神は夜の幻のうちにイスラエルに語って言われた、「ヤコブよ、ヤコブよ」。彼は言った、「ここにいます」。

創 46:3

 神は言われた、「わたしは神、あなたの父の神である。エジプトに下るのを恐れてはならない。わたしはあそこであなたを大いなる国民にする。

創 46:4

 わたしはあなたと一緒にエジプトに下り、また必ずあなたを導き上るであろう。ヨセフが手ずからあなたの目を閉じるであろう」。

創 46:5

 そしてヤコブはベエルシバを立った。イスラエルの子らはヤコブを乗せるためにパロの送った車に、父ヤコブと幼な子たちと妻たちを乗せ、

創 46:6

 またその家畜とカナンの地で得た財産を携え、ヤコブとその子孫は皆ともにエジプトへ行った。

創 46:7

 こうしてヤコブはその子と、孫および娘と孫娘などその子孫をみな連れて、エジプトへ行った。

創 46:8

 イスラエルの子らでエジプトへ行った者の名は次のとおりである。すなわちヤコブとその子らであるが、ヤコブの長子はルベン。

創 46:9

 ルベンの子らはハノク、パル、ヘヅロン、カルミ。

創 46:10

 シメオンの子らはエムエル、ヤミン、オハデ、ヤキン、ゾハル及びカナンの女の産んだ子シャウル。

創 46:11

 レビの子らはゲルション、コハテ、メラリ。

創 46:12

 ユダの子らはエル、オナン、シラ、ペレヅ、ゼラ。エルとオナンはカナンの地で死んだ。ペレヅの子らはヘヅロンとハムル。

創 46:13

 イッサカルの子らはトラ、プワ、ヨブ、シムロン。

創 46:14

 ゼブルンの子らはセレデ、エロン、ヤリエル。

創 46:15

 これらと娘デナとはレアがパダンアラムでヤコブに産んだ子らである。その子らと娘らは合わせて三十三人。

創 46:16

 ガドの子らはゼポン、ハギ、シュニ、エヅボン、エリ、アロデ、アレリ。

創 46:17

 アセルの子らはエムナ、イシワ、イスイ、ベリアおよび妹サラ。ベリアの子らはヘベルとマルキエル。

創 46:18

 これらはラバンが娘レアに与えたジルパの子らである。彼女はこれらをヤコブに産んだ。合わせて十六人。

創 46:19

 ヤコブの妻ラケルの子らはヨセフとベニヤミンとである。

創 46:20

 エジプトの国でヨセフにマナセとエフライムとが生れた。これはオンの祭司ポテペラの娘アセナテが彼に産んだ者である。

創 46:21

 ベニヤミンの子らはベラ、ベケル、アシベル、ゲラ、ナアマン、エヒ、ロシ、ムッピム、ホパム、アルデ。

創 46:22

 これらはラケルがヤコブに産んだ子らである。合わせて十四人。

創 46:23

 ダンの子はホシム。

創 46:24

 ナフタリの子らはヤジエル、グニ、エゼル、シレム。

創 46:25

 これらはラバンが娘ラケルに与えたビルハの子らである。彼女はこれらをヤコブに産んだ。合わせて七人。

創 46:26

 ヤコブと共にエジプトへ行ったすべての者、すなわち彼の身から出た者はヤコブの子らの妻をのぞいて、合わせて六十六人であった。

創 46:27

 エジプトでヨセフに生れた子がふたりあった。エジプトへ行ったヤコブの家の者は合わせて七十人であった。

創 46:28

 さてヤコブはユダをさきにヨセフにつかわして、ゴセンで会おうと言わせた。そして彼らはゴセンの地へ行った。

創 46:29

 ヨセフは車を整えて、父イスラエルを迎えるためにゴセンに上り、父に会い、そのくびを抱き、くびをかかえて久しく泣いた。

創 46:30

 時に、イスラエルはヨセフに言った、「あなたがなお生きていて、わたしはあなたの顔を見たので今は死んでもよい」。

創 46:31

 ヨセフは兄弟たちと父の家族とに言った、「わたしは上ってパロに言おう、『カナンの地にいたわたしの兄弟たちと父の家族とがわたしの所へきました。

創 46:32

 この者らは羊を飼う者、家畜の牧者で、その羊、牛および持ち物をみな携えてきました』。

創 46:33

 もしパロがあなたがたを召して、『あなたがたの職業は何か』と言われたら、

創 46:34

 『しもべらは幼い時から、ずっと家畜の牧者です。われわれも、われわれの先祖もそうです』と言いなさい。そうすればあなたがたはゴセンの地に住むことができましょう。羊飼はすべて、エジプトびとの忌む者だからです」。


第47章


創 47:1

 ヨセフは行って、パロに言った、「わたしの父と兄弟たち、その羊、牛およびすべての持ち物がカナンの地からきて、今ゴセンの地におります」。

創 47:2

 そしてその兄弟のうちの五人を連れて行って、パロに会わせた。

創 47:3

 パロはヨセフの兄弟たちに言った、「あなたがたの職業は何か」。彼らはパロに言った、「しもべらは羊を飼う者です。われわれも、われわれの先祖もそうです」。

創 47:4

 彼らはまたパロに言った、「この国に寄留しようとしてきました。カナンの地はききんが激しく、しもべらの群れのための牧草がないのです。どうかしもべらをゴセンの地に住ませてください」。

創 47:5

 パロはヨセフに言った、「あなたの父と兄弟たちとがあなたのところにきた。

創 47:6

 エジプトの地はあなたの前にある。地の最も良い所にあなたの父と兄弟たちとを住ませなさい。ゴセンの地に彼らを住ませなさい。もしあなたが彼らのうちに有能な者があるのを知っているなら、その者にわたしの家畜をつかさどらせなさい」。

創 47:7

 そこでヨセフは父ヤコブを導いてパロの前に立たせた。ヤコブはパロを祝福した。

創 47:8

 パロはヤコブに言った、「あなたの年はいくつか」。

創 47:9

 ヤコブはパロに言った、「わたしの旅路のとしつきは、百三十年です。わたしのよわいの日はわずかで、ふしあわせで、わたしの先祖たちのよわいの日と旅路の日には及びません」。

創 47:10

 ヤコブはパロを祝福し、パロの前を去った。

創 47:11

 ヨセフはパロの命じたように、父と兄弟たちとのすまいを定め、彼らにエジプトの国で最も良い地、ラメセスの地を所有として与えた。

創 47:12

 またヨセフは父と兄弟たちと父の全家とに、家族の数にしたがい、食物を与えて養った。

創 47:13

 さて、ききんが非常に激しかったので、全地に食物がなく、エジプトの国もカナンの国も、ききんのために衰えた。

創 47:14

 それでヨセフは人々が買った穀物の代金としてエジプトの国とカナンの国にあった銀をみな集め、その銀をパロの家に納めた。

創 47:15

 こうしてエジプトの国とカナンの国に銀が尽きたとき、エジプトびとはみなヨセフのもとにきて言った、「食物をください。銀が尽きたからとて、どうしてあなたの前で死んでよいでしょう」。

創 47:16

 ヨセフは言った、「あなたがたの家畜を出しなさい。銀が尽きたのなら、あなたがたの家畜と引き替えで食物をわたそう」。

創 47:17

 彼らはヨセフの所へ家畜をひいてきたので、ヨセフは馬と羊の群れと牛の群れ及びろばと引き替えで、食物を彼らにわたした。こうして彼はその年、すべての家畜と引き替えた食物で彼らを養った。

創 47:18

 やがてその年は暮れ、次の年、人々はまたヨセフの所へきて言った、「わが主には何事も隠しません。われわれの銀は尽き、獣の群れもわが主のものになって、われわれのからだと田地のほかはわが主の前に何も残っていません。

創 47:19

 われわれはどうして田地と一緒に、あなたの目の前で滅んでよいでしょう。われわれと田地とを食物と引き替えで買ってください。われわれは田地と一緒にパロの奴隷となりましょう。また種をください。そうすればわれわれは生きながらえ、死を免れて、田地も荒れないでしょう」。

創 47:20

 そこでヨセフはエジプトの田地をみなパロのために買い取った。ききんがエジプトびとに、きびしかったので、めいめいその田畑を売ったからである。こうして地はパロのものとなった。

創 47:21

 そしてヨセフはエジプトの国境のこの端からかの端まで民を奴隷とした。

創 47:22

 ただ祭司の田地は買い取らなかった。祭司にはパロの給与があって、パロが与える給与で生活していたので、その田地を売らなかったからである。

創 47:23

 ヨセフは民に言った、「わたしはきょう、あなたがたとその田地とを買い取って、パロのものとした。あなたがたに種をあげるから地にまきなさい。

創 47:24

 収穫の時は、その五分の一をパロに納め、五分の四を自分のものとして田畑の種とし、自分と家族の食糧とし、また子供の食糧としなさい」。

創 47:25

 彼らは言った、「あなたはわれわれの命をお救いくださった。どうかわが主の前に恵みを得させてください。われわれはパロの奴隷になりましょう」。

創 47:26

 ヨセフはエジプトの田地について、収穫の五分の一をパロに納めることをおきてとしたが、それは今日に及んでいる。ただし祭司の田地だけはパロのものとならなかった。

創 47:27

 さてイスラエルはエジプトの国でゴセンの地に住み、そこで財産を得、子を生み、大いにふえた。

創 47:28

 ヤコブはエジプトの国で十七年生きながらえた。ヤコブのよわいの日は百四十七年であった。

創 47:29

 イスラエルは死ぬ時が近づいたので、その子ヨセフを呼んで言った、「もしわたしがあなたの前に恵みを得るなら、どうか手をわたしのももの下に入れて誓い、親切と誠実とをもってわたしを取り扱ってください。どうかわたしをエジプトには葬らないでください。

創 47:30

 わたしが先祖たちと共に眠るときには、わたしをエジプトから運び出して先祖たちの墓に葬ってください」。ヨセフは言った、「あなたの言われたようにいたします」。

創 47:31

 ヤコブがまた、「わたしに誓ってください」と言ったので、彼は誓った。イスラエルは床のかしらで拝んだ。


第48章


創 48:1

 これらの事の後に、「あなたの父は、いま病気です」とヨセフに告げる者があったので、彼はふたりの子、マナセとエフライムとを連れて行った。

創 48:2

 時に人がヤコブに告げて、「あなたの子ヨセフがあなたのもとにきました」と言ったので、イスラエルは努めて床の上にすわった。

創 48:3

 そしてヤコブはヨセフに言った、「先に全能の神がカナンの地ルズでわたしに現れ、わたしを祝福して、

創 48:4

 言われた、『わたしはおまえに多くの子を得させ、おまえをふやし、おまえを多くの国民としよう。また、この地をおまえの後の子孫に与えて永久の所有とさせる』。

創 48:5

 エジプトにいるあなたの所にわたしが来る前に、エジプトの国で生れたあなたのふたりの子はいまわたしの子とします。すなわちエフライムとマナセとはルベンとシメオンと同じようにわたしの子とします。

創 48:6

 ただし彼らの後にあなたに生れた子らはあなたのものとなります。しかし、その嗣業はその兄弟の名で呼ばれるでしょう。

創 48:7

 わたしがパダンから帰って来る途中ラケルはカナンの地で死に、わたしは悲しんだ。そこはエフラタに行くまでには、なお隔たりがあった。わたしはエフラタ、すなわちベツレヘムへ行く道のかたわらに彼女を葬った」。

創 48:8

 ところで、イスラエルはヨセフの子らを見て言った、「これはだれですか」。

創 48:9

 ヨセフは父に言った、「神がここでわたしにくださった子どもです」。父は言った、「彼らをわたしの所に連れてきて、わたしに祝福させてください」。

創 48:10

 イスラエルの目は老齢のゆえに、かすんで見えなかったが、ヨセフが彼らを父の所に近寄らせたので、父は彼らに口づけし、彼らを抱いた。

創 48:11

 そしてイスラエルはヨセフに言った、「あなたの顔が見られようとは思わなかったのに、神はあなたの子らをもわたしに見させてくださった」。

創 48:12

 そこでヨセフは彼らをヤコブのひざの間から取り出し、地に伏して拝した。

創 48:13

 ヨセフはエフライムを右の手に取ってイスラエルの左の手に向かわせ、マナセを左の手に取ってイスラエルの右の手に向かわせ、ふたりを近寄らせた。

創 48:14

 すると、イスラエルは右の手を伸べて弟エフライムの頭に置き、左の手をマナセの頭に置いた。マナセは長子であるが、ことさらそのように手を置いたのである。

創 48:15

 そしてヨセフを祝福して言った、/「わが先祖アブラハムとイサクの仕えた神、/生れてからきょうまでわたしを養われた神、

創 48:16

 すべての災からわたしをあがなわれたみ使よ、/この子供たちを祝福してください。またわが名と先祖アブラハムとイサクの名とが、/彼らによって唱えられますように、/また彼らが地の上にふえひろがりますように」。

創 48:17

 ヨセフは父が右の手をエフライムの頭に置いているのを見て不満に思い、父の手を取ってエフライムの頭からマナセの頭へ移そうとした。

創 48:18

 そしてヨセフは父に言った、「父よ、そうではありません。こちらが長子です。その頭に右の手を置いてください」。

創 48:19

 父は拒んで言った、「わかっている。子よ、わたしにはわかっている。彼もまた一つの民となり、また大いなる者となるであろう。しかし弟は彼よりも大いなる者となり、その子孫は多くの国民となるであろう」。

創 48:20

 こうして彼はこの日、彼らを祝福して言った、/「あなたを指して、イスラエルは、/人を祝福して言うであろう、/『神があなたをエフライムのごとく、/またマナセのごとくにせられるように』」。このように、彼はエフライムをマナセの先に立てた。

創 48:21

 イスラエルはまたヨセフに言った、「わたしはやがて死にます。しかし、神はあなたがたと共におられて、あなたがたを先祖の国に導き返されるであろう。

創 48:22

 なおわたしは一つの分を兄弟よりも多くあなたに与える。これはわたしがつるぎと弓とを持ってアモリびとの手から取ったものである」。


第49章


創 49:1

 ヤコブはその子らを呼んで言った、「集まりなさい。後の日に、あなたがたの上に起ることを、告げましょう、

創 49:2

 ヤコブの子らよ、集まって聞け。父イスラエルのことばを聞け。

創 49:3

 ルベンよ、あなたはわが長子、/わが勢い、わが力のはじめ、/威光のすぐれた者、権力のすぐれた者。

創 49:4

 しかし、沸き立つ水のようだから、/もはや、すぐれた者ではあり得ない。あなたは父の床に上って汚した。ああ、あなたはわが寝床に上った。

創 49:5

 シメオンとレビとは兄弟。彼らのつるぎは暴虐の武器。

創 49:6

 わが魂よ、彼らの会議に臨むな。わが栄えよ、彼らのつどいに連なるな。彼らは怒りに任せて人を殺し、/ほしいままに雄牛の足の筋を切った。

創 49:7

 彼らの怒りは、激しいゆえにのろわれ、/彼らの憤りは、はなはだしいゆえにのろわれる。わたしは彼らをヤコブのうちに分け、イスラエルのうちに散らそう。

創 49:8

 ユダよ、兄弟たちはあなたをほめる。あなたの手は敵のくびを押え、/父の子らはあなたの前に身をかがめるであろう。

創 49:9

 ユダは、ししの子。わが子よ、あなたは獲物をもって上って来る。彼は雄じしのようにうずくまり、/雌じしのように身を伏せる。だれがこれを起すことができよう。

創 49:10

 つえはユダを離れず、/立法者のつえはその足の間を離れることなく、/シロの来る時までに及ぶであろう。もろもろの民は彼に従う。

創 49:11

 彼はそのろばの子をぶどうの木につなぎ、/その雌ろばの子を良きぶどうの木につなぐ。彼はその衣服をぶどう酒で洗い、/その着物をぶどうの汁で洗うであろう。

創 49:12

 その目はぶどう酒によって赤く、/その歯は乳によって白い。

創 49:13

 ゼブルンは海べに住み、/舟の泊まる港となって、/その境はシドンに及ぶであろう。

創 49:14

 イッサカルはたくましいろば、/彼は羊のおりの間に伏している。

創 49:15

 彼は定住の地を見て良しとし、/その国を見て楽しとした。彼はその肩を下げてにない、/奴隷となって追い使われる。

創 49:16

 ダンはおのれの民をさばくであろう、/イスラエルのほかの部族のように。

創 49:17

 ダンは道のかたわらのへび、/道のほとりのまむし。馬のかかとをかんで、/乗る者をうしろに落すであろう。

創 49:18

 主よ、わたしはあなたの救を待ち望む。

創 49:19

 ガドには略奪者が迫る。しかし彼はかえって敵のかかとに迫るであろう。

創 49:20

 アセルはその食物がゆたかで、/王の美味をいだすであろう。

創 49:21

 ナフタリは放たれた雌じか、/彼は美しい子じかを生むであろう。

創 49:22

 ヨセフは実を結ぶ若木、/泉のほとりの実を結ぶ若木。その枝は、かきねを越えるであろう。

創 49:23

 射る者は彼を激しく攻め、/彼を射、彼をいたく悩ました。

創 49:24

 しかし彼の弓はなお強く、/彼の腕は素早い。これはヤコブの全能者の手により、/イスラエルの岩なる牧者の名により、

創 49:25

 あなたを助ける父の神により、/また上なる天の祝福、/下に横たわる淵の祝福、/乳ぶさと胎の祝福をもって、/あなたを恵まれる全能者による。

創 49:26

 あなたの父の祝福は永遠の山の祝福にまさり、/永久の丘の賜物にまさる。これらの祝福はヨセフのかしらに帰し、/その兄弟たちの君たる者の頭の頂に帰する。

創 49:27

 ベニヤミンはかき裂くおおかみ、/朝にその獲物を食らい、/夕にその分捕物を分けるであろう」。

創 49:28

 すべてこれらはイスラエルの十二の部族である。そしてこれは彼らの父が彼らに語り、彼らを祝福したもので、彼は祝福すべきところに従って、彼らおのおのを祝福した。

創 49:29

 彼はまた彼らに命じて言った、「わたしはわが民に加えられようとしている。あなたがたはヘテびとエフロンの畑にあるほら穴に、わたしの先祖たちと共にわたしを葬ってください。

創 49:30

 そのほら穴はカナンの地のマムレの東にあるマクペラの畑にあり、アブラハムがヘテびとエフロンから畑と共に買い取り、所有の墓地としたもので、

創 49:31

 そこにアブラハムと妻サラとが葬られ、イサクと妻リベカもそこに葬られたが、わたしはまたそこにレアを葬った。

創 49:32

 あの畑とその中にあるほら穴とはヘテの人々から買ったものです」。

創 49:33

 こうしてヤコブは子らに命じ終って、足を床におさめ、息絶えて、その民に加えられた。


第50章


創 50:1

 ヨセフは父の顔に伏して泣き、口づけした。

創 50:2

 そしてヨセフは彼のしもべである医者たちに、父に薬を塗ることを命じたので、医者たちはイスラエルに薬を塗った。

創 50:3

 このために四十日を費した。薬を塗るにはこれほどの日数を要するのである。エジプトびとは七十日の間、彼のために泣いた。

創 50:4

 彼のために泣く日が過ぎて、ヨセフはパロの家の者に言った、「今もしわたしがあなたがたの前に恵みを得るなら、どうかパロに伝えてください。

創 50:5

 『わたしの父はわたしに誓わせて言いました「わたしはやがて死にます。カナンの地に、わたしが掘って置いた墓に葬ってください」。それで、どうかわたしを上って行かせ、父を葬らせてください。そうすれば、わたしはまた帰ってきます』」。

創 50:6

 パロは言った、「あなたの父があなたに誓わせたように上って行って彼を葬りなさい」。

創 50:7

 そこでヨセフは父を葬るために上って行った。彼と共に上った者はパロのもろもろの家来たち、パロの家の長老たち、エジプトの国のもろもろの長老たち、

創 50:8

 ヨセフの全家とその兄弟たち及びその父の家族であった。ただ子供と羊と牛はゴセンの地に残した。

創 50:9

 また戦車と騎兵も彼と共に上ったので、その行列はたいそう盛んであった。

創 50:10

 彼らはヨルダンの向こうのアタデの打ち場に行き着いて、そこで大いに嘆き、非常に悲しんだ。そしてヨセフは七日の間父のために嘆いた。

創 50:11

 その地の住民、カナンびとがアタデの打ち場の嘆きを見て、「これはエジプトびとの大いなる嘆きだ」と言ったので、その所の名はアベル・ミツライムと呼ばれた。これはヨルダンの向こうにある。

創 50:12

 ヤコブの子らは命じられたようにヤコブにおこなった。

創 50:13

 すなわちその子らは彼をカナンの地へ運んで行って、マクペラの畑のほら穴に葬った。このほら穴はマムレの東にあって、アブラハムがヘテびとエフロンから畑と共に買って、所有の墓地としたものである。

創 50:14

 ヨセフは父を葬った後、その兄弟たち及びすべて父を葬るために一緒に上った者と共にエジプトに帰った。

創 50:15

 ヨセフの兄弟たちは父の死んだのを見て言った、「ヨセフはことによるとわれわれを憎んで、われわれが彼にしたすべての悪に、仕返しするに違いない」。

創 50:16

 そこで彼らはことづけしてヨセフに言った、「あなたの父は死ぬ前に命じて言われました、

創 50:17

 『おまえたちはヨセフに言いなさい、「あなたの兄弟たちはあなたに悪をおこなったが、どうかそのとがと罪をゆるしてやってください」』。今どうかあなたの父の神に仕えるしもべらのとがをゆるしてください」。ヨセフはこの言葉を聞いて泣いた。

創 50:18

 やがて兄弟たちもきて、彼の前に伏して言った、「このとおり、わたしたちはあなたのしもべです」。

創 50:19

 ヨセフは彼らに言った、「恐れることはいりません。わたしが神に代ることができましょうか。

創 50:20

 あなたがたはわたしに対して悪をたくらんだが、神はそれを良きに変らせて、今日のように多くの民の命を救おうと計らわれました。

創 50:21

 それゆえ恐れることはいりません。わたしはあなたがたとあなたがたの子供たちを養いましょう」。彼は彼らを慰めて、親切に語った。

創 50:22

 このようにしてヨセフは父の家族と共にエジプトに住んだ。そしてヨセフは百十年生きながらえた。

創 50:23

 ヨセフはエフライムの三代の子孫を見た。マナセの子マキルの子らも生れてヨセフのひざの上に置かれた。

創 50:24

 ヨセフは兄弟たちに言った、「わたしはやがて死にます。神は必ずあなたがたを顧みて、この国から連れ出し、アブラハム、イサク、ヤコブに誓われた地に導き上られるでしょう」。

創 50:25

 さらにヨセフは、「神は必ずあなたがたを顧みられる。その時、あなたがたはわたしの骨をここから携え上りなさい」と言ってイスラエルの子らに誓わせた。

創 50:26

 こうしてヨセフは百十歳で死んだ。彼らはこれに薬を塗り、棺に納めて、エジプトに置いた。